~「おくれ」と「生きにくさ」「困り感」に寄り添う支援~

~「おくれ」と「生きにくさ」「困り感」に寄り添う支援~

大和高田市教育委員会事務局 教育部教育支援課 指導主事 井芝満喜子先生

私たち子育て支援委員会は今、発達障害について学んでいます。私たちの素朴な疑問について、井芝先生に丁寧に分かりやすく答えていただきました。今回はこの心温まるご講演を広く皆様に見ていただけるようにしました。
・予備知識としては、パンフレットをご覧ください。
・今回の動画は、下に列記した質問に照らし合わせて興味深い箇所からご覧いただくことも出来ます。

1)学習障害についての質問
①学習障害において、親は「怠けている。頑張ればできるのに」 と思いたい部分があるかもしれませんが、障害との違いはあるのでしょうか?
②障害の中でも、学習障害について支援の流れを教えてください。

 →「限局性学習障害(LD)について」・「学習障害ってどうやって診断されるの??」・「学習障害の支援」を参照(1:14~)

書字の困難がある子はなまけているのではありません。その子に応じた覚え方やその子に応じた記録の仕方を用意していくことが大事です。ICT機器は学習障害を持つ子どもさんたちにとって大きな助けになっています。それはメガネやコンタクトのような役割です。ICT機器を使うことは特別扱いではない、と認識を変えていけたら。

2)発達障害についての質問
③発達障害は遺伝的要因の関係が指摘されているとはいえ、 生活の中でのトラウマやストレスが原因でなることもある と聞きました。そうすると、大人も子供も全ての人がなる可能性があるのでしょうか?
④発達障害は生まれつきなのでしょうか?もしくは途中で発症することもあるのでしょうか。

→「発達障害について」を参照(10:57~)

 生まれつきの脳の認知機能の遺伝的要因と、子どもが過ごす環境要因が複合的に影響して発達障害の症状が現れます。環境はとても大事なのですが、親のしつけ方が悪い、愛情不足、といった仮説は現在では否定されています。
途中で発症することはないのですが、環境が変わったり、言葉がけなどの支援の状態が良くないと発達障害の症状が大きく表れてしまうこともあります。接する大人や環境が大きく影響してきます。途中から発症したと思ってしまいがちですが、そうではなく、その子における何らかの環境が変わり、複合的な要因でその症状が顕著に表れてしまっていると理解しましょう。
生活の中でのトラウマやストレスが原因で発達障害になることはありませんが、ただ、生活の中でトラウマやストレスがあって発達障害の症状が顕著に表れてしまうことはありうることです。また、愛着障害との見分けは必要です。愛着障害とは、関係性の中で上手く安心感、安全感が身に付いていかないと発達障害に似た症状が表れます。

3)グレーゾーンについての質問
⑤グレーゾーンにいる子どもたちの支援について教えてください。

→「発達のグレーゾーンの子どもたち」を参照(19:51~)

発達障害の診断基準にぴったり当てはまらず、特性(症状)が軽かったり、少なかったりするのがグレーゾーンです。発達がゆっくりしてるという特性はみられるものの、社会や学校に適応できないほどではありません。色とりどりの「パステルゾーン」という呼び方もあります。
定型発達と重度の発達障害の間の子どもたちが、個性なのか、グレーなのか分かりづらく、見つけにくくて対応が遅れてしまいがちになります。診断がつかないので、医療や福祉、学校行政の支援から外れてしまう。公的な支援が得られないからこそ、保護者に負担がかかってしまいます。しかし、この場合大切なのは診断を受けることより、『対応を知る』ことです。接し方や声掛けを変えていくことが大切になります。

4)支援学級についての質問
⑥支援学級での支援内容について教えてください。

→「特別支援教室」を参照(23:19~)

特別支援教育というのは学校全体で行っています。
〇通常の学級: 少人数指導や習熟度別指導などによる授業も。支援員がつく場合も。
〇通級による指導: 通常の学級に在籍し、ほとんどの授業障害に応じた特別な指導を週1~8単位特別な指導の場で行います。(通級指導教室と言われ、各自治体の教育委員会内に設置。学校内にあることも、他の学校にあり通うこともあります。市町村によって違いはあります。特別支援学級に入級していない児童を対象に受けられる場合もあります。各自治体に相談してください。)(小・中学校)
(対象)言語障害・自閉症・情緒障害・弱視・難聴・学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)・肢体不自由・病弱・身体虚弱
〇特別支援学級:障害の種別ごとの少人数学級。障害のある子ども一人一人に応じた教育を行います。(小・中学校)
(対象)知的障害・言語障害・自閉症・情緒障害・弱視・難聴・肢体不自由・病弱
※学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)の児童は特別支援学級の入級の対象にはなっていません。通級指導教室での支援を受けておられる場合や、民間の療育などの施設に通い、個に応じた支援を受けておられる場合もあります。
※特別支援学級に入級していないからとか、診断がついていないから、という理由で全く支援してもらえないのかという不安もあると思いますが、特別支援教育というのは学校全体で行っていくものです。診断がついている子ども、ついていない子どもに関わらず、様々な困難を抱えている子どもたち一人ひとりのニーズに合わせた教育を行っていくのが学校現場ですので、しっかり話し合って支援方法を見つけていっていただきたいです。

5)関わり方について
⑦ 分たちがサポートできることはありますか?どう関わっていけばよいでしょうか?

→「会話の型」参照(27:38~)

特別支援教育の知識を専門家のように皆が持つのは難しいです。ただ、会話であったりコミュニケーションを変えるだけで子どもたちの様子が大きく変わるので試していただきたいです。これは、全ての子どもたちに必要なスキルです。大人は身に着けていただきたいです。「会話の型」が4ステップがあります。
ステップ①会話をスムーズにスタートさせる「肯定的な声かけ」
ステップ②子どもが素直にさっと行動する「指示出しの声かけ」
ステップ③子どもの感情に巻き込まれない「落ち着かせる声かけ」
ステップ④子どもに成功体験の記憶を創る「自信を育む声かけ」

6)ご家族についての質問
⑧ 保護者自身が診断結果を受け入れられない場合、 子どもの支援は現場ではどう考えていけばよいでしょうか?
⑨  保護者自身が診断結果を受け入れられない場合、 その子のために支援員は配置できるのでしょうか?
⑩ 保護者自身が診断結果を受け入れられない場合、学級全体が上手くいかなくなること もある。そうなる前にできることはないでしょうか?
⑪ 保護者をサポートするにはどうしたらよいでしょうか?
⑫ 発達障害の支援についてPTAにできることはありますか?期待されることはありますか?

→「周りの無理解や偏見が親子を追い込む」「理解と環境調整」参照(47:57~)

保護者自身が診断結果を受け入れられないのは、周りに要因があるのではないか、とも考えられます。周りの無理解や偏見が親子を追い込んでいる、という現実を私たち一人ひとりが理解することが大事です。障害について、差別や偏見を持っていないか。そこをきちんと理解されている社会であれば、診断結果を受け入れようとするはずなのです。
しかし子どもの障害を受容できないのは社会的な障壁があるのではないかと考えます。親のしつけや甘やかしが原因じゃないかという取られ方が少なくなかったり、そのようなプレッシャーから、当事者の親は子どもを厳しくしつけしてしまうこともあります。
学校からの(トラブルの)連絡に落ち込み、子どもをどうにかしないといけない、きちんとさせよう、トラブルがないようにしようとして厳しく怒ってしまうという負の連鎖に陥る方もいます。
発達障害は、発達の程度や環境条件などによってその特性が出る頻度や強さが変化していくものです。『環境条件』はとても大事です。社会が寛容になり、障害の理解があれば保護者も障害受容がしやすくなるのではないかと考えます。
障害を認められないのは偏見や差別への恐れでもあります。子どもへの期待が大きく崩れてしまったり、社会や、これからの子育てに大きな不安を感じてしまうこともあります。自分の子どもの障害を受け入れるのは簡単なことではありません。親は落ち込んだり、葛藤したりをくり返しながら子どもの実態、特性を受け入れていきます。周りにどれだけ理解があるのか、どれだけの支えがあるのかによって障害受容ができるか変わってきます。親が障害受容ができたら、子への関わり方も違ってきます。
親が障害を認められないことを責めるのではなく、その『認められない葛藤を理解しようとすること』、『支えてあげられること』がとても大切です。「子どもを変えるために診断受けたら?」とか、「障害受容したら?」というのは違います。子育ての中で、上手くいかない不全感を感じている保護者はたくさんいます。孤独にさせないことが大事です。周りの保護者が自分の子を分かってくれている、ということがあるなら寛容に子育てしていけるのではないでしょうか。
周りができる事は『理解』そして『支えていく』こと。周りの差別や偏見から親子が追い込まれたり、孤立化していくことだけは避けていただきたいです。周りの保護者、家族、学校の先生が理解ある関わりをしていたら、学級が上手くいかないことはありません。理解と環境調整、温かい眼差しが大事です。
問題行動というのは結果であって、子どもたちからのSOSです。何に困っているんだろう?何が原因かな?と考えられたらよい。
学校が悪い、親が悪い、という攻め合いではなく、周りの保護者、家族、学校の先生、それぞれの立場の人間がそれぞれの立場で関わりや支援を見直していくことが大事です。
全ての立場で大事なことは、『行動観察』。子どもを知っていただきたい。子どもたちのパターン、良い部分も見えてくる。問題行動にこういう理由があるのかな、と見えてきます。
問題行動を改善して成長を促すためには子どもの観察が必要。特性や環境をすり合わせて観察することが大事です。
きちんと特性の理解をして欲しいです。それは専門家レベルの理解でなくてよいのです。スマホちょっと調べて見たり、研修会参加したり。
保護者や子どもの困り感に、共感的関わりをしていただきたい。「そら、いらんかったよなあ」、「よくがんばって子育てしてるなあ。がんばって支援さがしてるなあ」、と。成長を一緒に喜んだり、そういう関わりが出来たら。学校現場も障害教育について研修などで新しい情報を得て行動に移していきたいです。

7)相談窓口についての質問
⑬ 相談窓口はどこが適格なのでしょうか?
⑭ 進学時など親が子どもの進路の選択をしなければ ならない際のサポートはどんなものがあるのでしょうか? また、しっかりした情報はどうしたら得られるのでしょうか?

→「相談窓口について」参照(1:00:22~)

〇奈良県の公式ホームページに様々な相談機関が紹介されています。
検索してご覧ください。「支援機関ガイド」「発達障害に関する相談窓口」「発達障害の診療にかかる医療機関リスト」(奈良県)「市町村の相談窓口一覧」「奈良県発達障害者支援センター・でぃあー」等で検索してください。
〇身近な学校の先生が知りうる機関につなげてくれることもあります。各市町村の教育委員会、保健センターに相談することもできます。
〇県から各市町村に派遣されているSSW(スクールソーシャルワーカー)※市町村にSSWがいる場合もあります。

8)学校以外での居場所についての質問
⑮  支援が必要な方で地元校に進学して不登校になった場合、どんな居場所があるのでしょうか?また、どんな活動をするのでしょうか?

→「学校以外の居場所」参照(1:03:02~)

様々な居場所があります。その中でその子に合った場所が見つかると良いと思います。
〇各市町村教育委員会に設置されている適応指導教室や居場所※設置されていない市町村もあります。
生駒市「いきいきほっとルーム」
奈良市「HOP(ほっぷ)」と公認フリースクール「HOP(ほっぷ)青山」
天理市「いちょうの木教室」 桜井市「さくらの広場」 宇陀市「はばたき」
橿原市「虹の広場」 大和高田市「かたらい教室」※広陵町も利用可
五條市「くすのき教室」 香芝市「すみれ教室」 大和郡山市「ASU」
葛城市「ふたかみ教室」御所市「まなびの広場」 大淀町「あらかし教室」
高市郡「高市郡 適応指導教室」
〇県立教育研究所に設置されている居場所「こまどりルーム」
〇民間のフリースクールや居場所
〇奈良教育大学 居場所「ねいらく」6歳~18歳  など

9)将来についての質問
⑯  当事者が成人してから、親兄弟など身内がおらず 一人になったときのその方の暮らしはどうなるのでしょうか?

→「大人になってからの支援」参照(1:04:07~)

大人になってからも支援は受けられます。福祉サービスを紹介してもらえる機関に行 き、必要な支援を受けられる。今は自立していけるシステムが福祉の中で広がっています。安心して下さい。
☆受けられる支援
・障害者手帳による支援(精神障碍者保健福祉手帳)・障害者雇用枠による就労支援
・専門機関により支援 ・就労定着支援 ・自立支援医療(精神通院医療)
☆支援機関
・発達障害者支援センター・就労移行支援事業所・障害者就業・生活支援センター・ハローワーク 精神保健福祉センター
☆グループホーム等の生活援助事業もある。
☆障害者手帳があると福祉サービスを受けることができます。

10)学校での支援についての質問
⑰ 支援学級担当の先生の資格や研修について教えてください。
⑱ 早期に診断を受けて、支援の結果良い方向に進んだ、という事案はありますか?
⑲ 子どもの行動がおかしい、他の子とちょっと違うと思った場合何歳くらいに専門家を訪ねるべきでしょうか?
⑳ または、何歳以降であれば受診が可能なのでしょうか?

→「発達障害者支援法」参照(1:06:05~)

特別支援学校であったり、資格をお持ちの方もいますが必ずしも全ての先生が持っているわけではありません。しかし、発達障害の児童が増えている現状もふまえて、教師がしっかりと研修を受けていくようにと通達が出ています。クラスや学校で子どもたちが排除されたり疎外感を感じたり必要な支援が受けられなかったりすることのないように、教師も研修を受けて、適切な支援をしていかねばなりません。
子どもの発達は3歳児健診などで心理士さんにみてもらうこともあります。早ければ早い方が適切な支援が受けられます。例えば福祉サービスの療育などもあり、そこで適応していくこともあります。長くそのまま放っておくと二次障害を受けることもある。二次障害的な心の傷を治すのに時間がかかり、本当に必要な支援が入っていかない場合があります。
早いうちから支援を受け、「世の中って支えてくれるんや」、「自分はその中で助けを求めても良いんや」、と理解しながら成長できる方が良い。誰にも自分を分かってもらえない期間が長いよりも自分のこと理解してもらえる、と自信をもち、周りを信用しながら成長できる方が良い。
しかし、遅かったからといって手遅れなわけではありません。必要な時期に適切な支援ができることが大事です。それまでは良くても、環境がごろっと変わったときに困り感が出て初めて気づくこともあります。困った時点で相談に行く。そして適切な手立てを考えていくことが大事です。

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